消費税が8%から10%に上げられた。25%の増税だ。
景気への悪影響を減じるためだろう、「軽減税率」と呼ばれる複数税率制度やキャッシュレス決済ポイント還元制度も合わせて開始された。(「軽減税率」は、実際は税率据え置きであって軽減ではないので、「 」をつけたい。ポイント制は来年6月までの時限制度)
わたしには、これらは大変ちぐはぐな政策だと思われる。根本から考えていない。日本の政策は、しばしば根本の方針が間違っていて、実行すればさまざまな問題が生じる。ところが、根本を改めないまま、対処療法的な目先の対応を繰り返し、その結果、矛盾だらけ、継ぎはぎだらけになる例が多いと感じる。費用対効果は上がらず、副作用さえある。
今回は、消費税で景気に強いブレーキをかけながら、ポイント制度などでちまちまとアクセルを踏もうとしている。ヒール&トゥ(シフトダウンの際にブレーキを踏みながらアクセルを煽る高度な運転テクニック)ではあるまいし、「景気対策も忘れてません」という言い訳のアリバイ作りにすぎない。消費増税という日本刀で消費者に切り付けておいて、絆創膏を配るようなものだ。しかもこの絆創膏が、良く分からないややこしい絆創膏である。
複数税率の複雑さが引き起こす混乱や、キャッシュレス決済ポイント還元制度に対応できない商店の困惑が報道されている。それだけではない。わたしが暮らすような山村では、高齢の店主の古くからのお店もある。近所のなじみ客の日常の必要に応えるため、なんとか店を続けているのが実情だ。そんなお店にとって、キャッシュレスは勿論、複数税率への対応は大きな負担であり、これを機に商売をやめる店もでてくるだろう。そうなると、自動車に乗れないお年寄りは、買い物難民になってしまう。
複数税率やポイント還元制度だけではない。消費税そのものが、根本で間違ったちぐはぐな施策だと思う。
消費税でよく指摘される問題は、逆進性だ。低所得層ほど負担度が高い。所得が少なくても、完全自給自足生活をしているのでない限り、生きていくためにはものを買わねばならない。生存のために購入・消費は絶対に必要なのだ。所得が多ければ、生存のためだけでなく、楽しみのために消費をすることもあろう。もっと豊かであれば、収入の一部を消費ではなく貯蓄に回したり、さらには株などに投資する人もいる。しかし、所得が少ない人にとっては、消費=生存なのだ。つまり、消費税は、生存に課する税金であり、いうなれば人頭税に等しい。
消費増税の目的はなんだろうか。増え続ける福祉予算をまかない財政赤字に対処するためだという。では、今回増税すれば当面は安泰なのか。残念ながらそうではない。景気が好転して税収が増えない限り、今回の増税は一時の時間稼ぎでしかない。高齢化が進んで社会保障費は増大し、少子化で労働人口は減少して現役世代の負担は増える。さらなる増税や社会保険料の値上げ、福祉のカットが避けられないという。
一寸待って欲しい。消費税は景気を悪化させてしまうじゃないか。消費税で景気を悪化させながら、景気の好転を期待するのか。若者たちからゆとりを奪い、生存だけに汲々とするような暮らしをさせていることが、少子化の原因ではないのか。目先の税収のために消費税を上げた結果、景気は悪化し、若者の暮らしはさらに苦しくなり、少子化にますます拍車がかかる。消費税は、消費にペナルティを課すことだから、消費が落ち込むのは当然のこと。GDPの6割を占める個人消費が減退すれば、景気は悪化する。生存だけで精一杯の若者に、家庭を持ち子どもを育てるゆとりはさらになくなる。目先の税収アップのために、日本の経済や社会構造を損なうのが消費税だ。
景気を底上げし、少子化に歯止めをかけるには、反対に人々の購買力を回復させなければならない。
経営の側は、人件費をコストと考え、削減してきた。個々の企業が労働者を減らし、賃金を抑制してきた結果、社会全体の購買力が失われ、消費は落ち込み、内需は冷え込んだ。労働者は、同時に生活者であり、消費者なのだ。需要を喚起し、お金が世の中を廻るようにして景気を回復するには、労働者のサイフにゆとりをもたらさねばならない。
生活にゆとりが生まれれば、自分の面白がれる仕事をし、やりがいを目指して働くこともできる。今のような、生存のために上司の意向を忖度してそのために働くような、自分を殺した働き方は減っていく。社会全体がのびのびしていくはずだ。それでこそ創造性も生まれる。今の日本企業が、みんなをワクワクさせる新たなジャンルの商品・サービスを生み出せていない理由は、忖度を強いる窮屈さのせいだと思う。
消費税は勿論、公共料金や社会保険料なども減らしていくべきだ。教育費などの負担も下げて、税金は暮らしを支えることに使っていく。今のゆとりと未来の安心こそが、根本の景気浮揚策であり、少子化対策だ。
しかし、いつもの聞きなれた批判が聞こえてくる。「財源はどうするのか?」
まずは、「財政赤字に対応するには消費税を上げるしかない」という思い込みを捨てようではないか。
消費税は、来年度の税収最大の割合を占めることになるそうだ。しかし、消費税だけが税金ではない。
消費税は20年前に3%で始まり、ついに10%まで上げられた。当然、消費税の総額は一貫して右肩上がりで増えている。それに対して、法人税や所得税からの税収は、この20年間右肩下がりだ。一般会計の税収合計は、20年前のレベルから一旦落ち込み、近年やっと20年前の水準に戻った。つまり、消費税総額がふえても、税収の総額は増えていない。消費税収が増えた分、法人税や所得税からの歳入が減っているのである。
法人税は、消費税とは反対に税率が下げられてきたし、さまざまな控除が「抜け道」として用意されているといわれる。法人税をきちんと徴収する税制にする必要がある。
所得税の累進性も弱められてきた。また、株の売却益などは、分離課税とされ、累進課税を免れ、どれだけ莫大な利益を得ても20%の課税ですんでしまう。これも是正するべきだ。
グローバル企業が、国境を超えて利益をタックスヘイブンに貯め込み、課税逃れをしていることにもメスをいれなければならない。勿論日本だけでできることではない。日本が音頭を取り、外国政府と連帯して、グローバル企業から徴税する新たな仕組みを構築すべきだ。
トービン税というアイデアもある。為替取引は、現実のモノやサービスの対価を支払うためよりも、利ザヤを狙った通貨取引が非常な高頻度で繰り返されている。そこに極低率の課税をするだけでも、膨大な税収になる。これも外国政府と協力し合った取り組みが必要だ。
同時に、歳出の無駄も省かねばならない。例えばイージス・アショアがいい例だ。これについては、日本ではなく、ハワイとグアムを守るために日本の税金でアメリカから購入する、という、本当なら呆れるしかない分析があるが、それは置いておいても、例えば北朝鮮のミサイルは技術革新が目覚ましく、単純な弾道軌道ではない変則的な軌道を飛ぶ新型が7月に発射された。ミサイル迎撃の信頼性はただでさえ元々低いのに、変則軌道となればお手上げだ。新型ミサイルによって、イージス・アショアは無用の長物になった。
そもそも安倍政権は、リスクに真剣に対処しようとしているとは思えない。都合のいいリスクをつまみ食いして利権にしているのではないかと感じざるを得ない。イージス・アショアのような愚かなことに巨額の税金をつぎ込むのではなく、外交交渉に精力を傾け、軍備への依存度の低い安全保障を模索するべきだ。
この際もう一段階踏み込めば、「財政赤字をそれほど重大視する必要はない」という学説も、最近いくつか話題になっている。批判も多いし評価はまだ定まっていないが、少なくとも、以下のように考えることはできるのではないか。
財政赤字が警戒される理由は、その累積が巨額になるとハイパーインフレを引き起こすといわれるからだ。しかし、日本の債務残高は既にGDPの200%に達しており、そんな中で日銀が異次元緩和をして懸命にインフレ率を上げようとしても、そうできなかった。今の状況は、積極的にリスクを取って投資をする人がおらず、金融緩和をしても需要が伸びないので物価が上がらないのだ。そうであれば、歳入を基準に財政規律を捉え歳出の超過が直ちに悪であるという考えは捨ててもいいのではないか。代わりにインフレ率を財政規律の基準にする。インフレ率が適正なレベル以下である限りは、国民生活を支えるための支出を抑えるべきではない。国家財政を破綻させないために、歳出を歳入以下に抑え込むことに拘って福祉を削減して国民生活を破綻させるなら、本末転倒だ。
しかしながら、これはやはり財政規律の緩和であり、安倍政権下では行ってはならない。なぜなら、財政規律を緩和すれば、安倍政権はこれまで以上に「お友達」への冨の再分配を強化するからだ。歳出は、「お友達」にではなく、国民の暮らしを支えることに使わねばならない。
まずは政権交代を実現する。しかる後に、消費税を削減していき、取るべきところから税金を取り、暮らしのために税金を使う。そのためには、財政赤字を恐れない。ただし、インフレ率に常に気を配りながら。
踏み込んだ考えを公表し、批判に晒してみた。ご意見をお聞かせください。考えを深めるヒントにしたい。
2019年10月4日 曽我逸郎