中国への姿勢について

( 伊藤聡とおっしゃる方 からご意見を頂いてのやり取りです。下にいくほど古く、新しいものが上です。読みにくくてすみません。頂いたメールは青字にします。)

* * 伊藤さんからの2通目 2020,10,27 * *

曽我 逸郎 様

私の意見メールに誠意をもって丁寧にご対応いただき、感謝いたします。香港に関する論説も拝読しました。プロフィールを拝見しましたが、実は私も京都大学文学部(宗教学)でしたので、これも何かのご縁かと存じます。

さて、曽我様が仰る通り、まずプロパガンダに騙されないように情報の真偽を見極めることは重要です。ナイラ証言がCIAの捏造であったことは私も承知しております。ルーズベルトが真珠湾攻撃を利用して対日開戦へアメリカ国民を誘導したように、ブッシュ政権は9.11をイラク攻撃の口実として利用しました。評論家の丸谷元人氏が言うように、ノーベル平和賞のマララさんの話でさえ疑ってかかるべきかもしれません。情報が権力とマスメディアによっていかようにも操作されることを認識した上で、情報を収集し、客観的に分析する能力が求められることは、仰る通りだと思います。

たとえばちょうど今、ハンター・バイデン・スキャンダルをめぐって相反する情報が錯綜しているような場合、当然そこに偽情報や情報操作が紛れ込んでいるわけですが、私たちが自分で直接証拠を調べることはできなくても、様々な情報を精査した上での論理的思考・判断により真偽を見究めることは可能だと思います。パソコンのHDや複数の証人から提出された諸々の証拠は一つ一つ取ってみれば疑ってかかることも可能ですが、反証の努力をいっさいせず、ただ一括して「それはロシアの偽情報工作だ」「それは嘘だ」としか言わないバイデン陣営の態度を観察し、そして議論を封殺して問題そのものが存在しないことにしようとしている大手マスメディアや大手SNSの異常な動きを観察することによって、真実がどこにあるのかを推定することができます。

中国では中国共産党政府のプロパガンダ機関としての官製メディア以外は許されていません。したがって、これらのメディアが言わないこと、ないし否定することの中に真実が隠されていると考えるべきでしょう。そして中国共産党政府がいくら隠蔽しても、WeChatとWeiboに対する徹底した監視、検閲を行っても、真実が漏れ伝わっていくことを完全に阻止することはできません。

迫害に呻吟する数百万のウイグル人からここ数年の間に数百、数千の情報がもたらされています。SNSに対する監視網をすり抜けてきた悲惨な映像や、辛うじて国外に脱出してきた人々の証言が、日々新たにTwitterにアップされています。東京にも数百人のウイグル人が居住していますが、彼らはみな家族を強制収容所に連行されたり、家族を人質に取られて脅迫され、スパイになることを求められたりしています。在日ウイグル人の団体を訪問すれば、いくらでも当事者から直接証言を聴取することができます。一人や数人であればCIAが証人として偽造することもありうるでしょう。しかしこれだけ多くの人々が背後から操られて一斉かつ一様なプロパガンダを流しているなどという中国共産党政府の弁明は説得力をもつでしょうか?そしてすでにこれだけ多くの証人がいれば、それに加えてたとえばCIAが一部そこにプロパガンダを紛れ込ませる必要があるでしょうか?何より衛星写真によってウイグルの1000か所以上のモスクが破壊・改造され、数百の収容所が新設されていることが判明していますし、オーストラリアのドローン映像は手錠をはめられた数百のウイグル囚人が列車で搬送されていく現場をとらえています。カシュガルの空港の出国検査場では「臓器搬送用レーン」と床に記された文字が写真に撮られており、中国南西航空もウェブサイトで年間に搬送した臓器の数を誇らしげに記載しています。中国共産党政府によるウイグル人迫害の事実そのものには議論の余地はありません。であるからこそ、米議会はウイグル人権法を可決し、カナダ議会はさらに一歩踏み込んで「ジェノサイド」という表現を使って中国共産党政府を批判しました。今年に入ってEUもウイグル人権侵害への懸念を表明し、国連の場でもドイツが主導して日本を含む39か国が中国を批判しました。

情報量があまりに膨大であるため、たしかに一人の個人がすべての情報を収集・処理することは困難かもしれません。しかし立憲民主党の中でチームを立ち上げ、分担して作業にあたれば、一か月で情報を網羅し、実態を把握することができるはずです。まずはアンテナを張ってTwitterや在日ウイグル人の生証言に耳を傾け、そこから一次情報を収集するのが第一歩です。ウイグル迫害問題を研究している第一人者、エイドリアン・ゼンツAdrian Zenz氏やイタリアの専門誌Bitter Winte等のレポートでは詳細な情報分析が行われています。これに加えて、欧米各国の動きを追跡すれば、具体的アクションに向けた基盤は十分整うだろうと思います。国家予算などつかなくても、「やる気」さえあればできることばかりです。

「状況把握が十分でないうちは、軽々に判断しないように慎重であるべきこと」、「情報収集力、分析力を高めること」、どちらもその通りです。しかしそれが「今はまだ何もしないこと」の言い訳になっていないでしょうか?「政権を執らなければ」とか、「官僚組織がなければ」とか仰いますが、内政不干渉を盾に情報を隠蔽する中国共産党政府に対して日本の官僚組織は何もできないでしょう。中日報道協定に縛られ、中国共産党政府に忖度せざるをえない日本の大手マスメディアも無力です。(ジャーナリスト精神を発揮して現地で果敢に取材を試みると、先日のオーストラリアの記者のように家族ぐるみ身の危険に晒されます。)官僚組織を使える与党でなくても、国から予算が下りなくても、それを言い訳にして今できること、今なすべきことをしなければ、立憲民主党が政権を執る日は永遠に来ないと私は思います。

先日、イギリスのある女性議員が議会演説の中でこう語りました。

「ウイグル人に対する民族浄化はわたしたちの目の前で行われています。もし私たちがただ傍観していれば、歴史は私たちの許されざる臆病さを断罪し、何故何もしなかったのかと私たちを問い詰めるでしょう。この問題については誰もあとで『自分は知らなかった』と言い訳することはできません。」

ナチスのホロコーストさえ上回る非人道的国家犯罪が私たちの隣国で今まさに行われている可能性ないし蓋然性を否定しえない以上、人間として無関心でいることは許されないのではないでしょうか?これがもし中国共産党政府の言うように本当に「根拠のないデマ」であったら幸いです。しかし逆にもしこれが真実であったとしたら、この国家犯罪に対して声を上げ、行動を起こすことは政治家として、否、同時代を生きる人間としての義務ではないでしょうか?カンボジアで70年代後半にポルポト独裁政権が200万人を大虐殺したとき、世界はその事実を後になって知りました。私もそうでした。しかしウイグル人、チベット人、そして法輪功修行者に対する迫害は閉ざされた扉のすぐ向こうで現在進行形で起きていることです。扉を開けずとも、私たちがアンテナを立てさえすれば、耳に聞こえ、目に見えてくる現実なのです。

ここではウイグル人の問題を取り上げましたが、チベットや法輪功に対して中国共産党がこれまで行ってきた迫害も、ナチスのホロコーストに匹敵する深刻な問題です。法輪功は日本では比較的知られていませんが、10年以上にわたる複数の徹底した国際的調査ですでに膨大な証拠が確定されています。そしてその証拠に基づいて欧米各国の議会は非難決議を上げています。アンテナを立て、目を開けるかどうかです。

もう一点、私の懸念を申し述べます。私自身これまで左翼から世界を見てきたので分かるのですが、

概して左翼の人々はアメリカの悪事に目を向け、その分だけ中国の悪を割引して見る傾向があります。曽我様の論説を読んでいても、アメリカへの警戒心と中国政府への「理解」がセットで語られていることが幾度も目につきました。私はアメリカと中国を二つの覇権国家として同列に見ること自体に疑問を感じております。

自由と民主主義を掲げるアメリカが必ずしも全面的に理想的な国でないことは論を俟ちません。覇権国家アメリカは古典的なグローバル企業群(兵器産業、製薬産業、石油産業等)や現代のGAFA(Big Tech)等がひたすら経済的利益を追求し、政権がそれをサポートするところに「悪」をまき散らしています。しかしそうではあっても、この国ではこの「悪」に反対する声が排除されないため、絶えず「善」と「悪」がせめぎあいながら、「自由」の中で混在しています。一方、中国は1949年に暴力で政権をとった中国共産党が軍、企業、人民のすべてを一元的に支配し、その支配に対抗する勢力はその都度国家暴力により排除・抹消されます。支配者である中国共産党の唯一の関心事は自らの権力の維持・拡大なので、原理的に人権弾圧を止めることはできません。少数民族が、宗教集団が、民主人権派が中国共産党の独裁体制に少しでも異を唱えれば、あるいは異を唱えずとも中国共産党以外の何かを信奉するだけで、抑圧ないし殲滅の運命を免れません。過去71年間の歴史を見れば、明らかです。鄧小平が改革開放に舵を切ったとき、西側世界は中国が普通の国になると期待を抱きましたが、天安門事件でその期待は砕かれました。その後、中国との経済的結びつきが深まるとともに私たちは再び期待を抱きましたが、その期待も香港国安法導入で打ち砕かれました。アメリカは今年になって数十年来の関与政策を転換し、中国共産党を極力平和裏に解体して中国を中国共産党から解放するしかないと腹を決めましたが、私もそう考えております。毛沢東のDNAはバージョンアップして習近平に受け継がれており、もし中国共産党をさらに放置すれば日本のみならず世界が中国共産党という一元的な「悪」、いわば「存在悪」に侵食されるでしょう。

アメリカの「悪」を過大視すると、中国の「悪」が相対化されてしまいますが、実際にはアメリカの部分的「悪」は中国共産党という全面的な「悪」とかなりの繋がっています。そのことを可視化したのが、冒頭に触れた現在進行中のバイデン・ゲートです。経済的利益で中国に篭絡されたバイデン一家と多くの民主党大物政治家、彼らを守ろうと躍起になっているFecebookやTwitterには、中国共産党が浸透しています。またこれらに大手マスメディアやGAFAも結びついています。バイデン陣営の資金力はトランプ陣営を圧倒していますが、これもバイデンを通じて中国との良好な関係を期待するグローバル企業が背後にいることの証と見ることができるでしょう。

アメリカと中国が張り合ったり手を携えたりしながら主導してきたグローバル化の結果、アメリカと中国という二つの国を対置してその間で日本の在り方を考えるという古典的思考では今の世界の現実を捉えることができなくなってしまったと思います。中国における独裁的支配者としての中国共産党と中国ないしは14億の中国人を切り分けて見る視点(7.23のポンペオ演説)、アメリカ内部、そして日本内部における反中と親中の対立(ここでいう「中」は中国共産党)に着目する視点が重要だと思います。左か右か、反米か親米かという時代は半ば過去のものです。

ついでに言えば、「国連中心の外交」という理想が残念ながらもう機能しないことは、最大の人権侵害国家である中国が国連人権委員会の理事国に選ばれたことを見れば明らかでしょう。中国が経済的に侵略した一帯一路のアジア・アフリカ諸国は中国の意に従って動く属国と化し、国連の場ですでに過半数を占めていますので、中国はWHOやWTOも操るほどの影響力を有しています。

以上、曽我様あるいは立憲民主党にはにわかに受け入れがたいものであることを承知の上で、あえて私見を忌憚なく述べさせていただきました。一部でもご参考になれば幸いです。

伊藤 聡

PS:曽我様のHP上で私の名前を記載していただくこと、一向に差し支えございません。

* * 曽我からの返事  2020,10,23  * * 

S. I.様

 メールを頂き、ありがとうございます。返事が遅くなり、申し訳ありません。

 HPの「意見交換」のコーナーにお名前をイニシャルにして掲載させていただきました。ご了解頂ければ、ご本名に訂正いたしますので、ご指示くださいませ。

 さて、雨傘運動以降の香港・中国については、すでに考えを述べておりますので、最初にそれをご一読いただきたいと存じます。
『香港、中国、日本の外交』https://itsuro-soga.com/2019/08/29/hello-world/

 香港、あるいは中国だけのことではなく広く一般的に言って、わたしの基本的な考えを申し述べますと、外国の紛争については、それが国と国の間の紛争であれ、その国の中での紛争であれ、それをどう評価・判断するかについては、慎重であらねばならない、と考えています。

 なぜかというと、過去のプロパガンダを思い出さざるを得ないからです。
 イラク軍の非道を涙ながらに訴えて、米国民の義侠心に火をつけ、米国に湾岸戦争を始めさせた少女ナイラの証言は、駐米クウェート大使の娘による嘘の芝居でした。湾岸戦争では、油まみれの水鳥の写真も大量に出回り、自然破壊をためらわないサダム・フセインの悪行への怒りを呼び起こしましたが、全く関係のない海難事故の写真でした。イラク戦争の理由として喧伝された大量破壊兵器もありませんでしたし、トンキン湾事件、古くは柳条湖事件も、自作自演でした。
 プロパガンダは、人間(凡夫)の自動的反応につけ込んで、思惑をもって人々の怒りや不安を操り、大衆に同じ反応をさせるのです。

 勿論、香港の若者たちの行動が仕組まれたものであって主体的ではない、などと言っているのではありません。香港で抗議活動をする人たちのほとんど、あるいはすべては、已むに已まれぬ思いからの行動であるに違いありません。そうさせた背景には、共産党指導部のあせりがあったでしょう。香港の若者たちが一国二制度への脅威を感じているのと同様に、北京も反対の立場で、香港の制度が全国に広がることを恐れているのです。国民の欲望を拡大させて経済発展を実現しつつ、政治的には国民を統制下に置き続けたい、置き続けねばならないという両立の難しいかじ取りに、プレッシャーを感じていると思います。
 そして、一部の外部勢力は、この機会に乗じて共産党指導部の支配をかく乱しようと動いていることでしょう。
 裏側で様々な思惑が複雑に絡み合っており、軽々に反応することは危険です。義侠心は、プロパガンダに簡単に操られてしまう感情だからです。

 とはいえ、座視したままでいることの危険も承知しています。

 したがって、まず、事態を的確に把握する能力が必要です。個人レベルでは困難なことですし、官僚組織なしに立憲民主党を含む野党でどこまで実態に迫れるのか分かりませんが、その努力をするほかありません。
 映画のようなスパイ活動ではなく、地道な情報収集と分析です。内外の研究者・マスコミ・政党などと日常的にパイプをもち、現地の人たちを含めて市民の意見を聞くことが必要だと思います。

 状況を理解した上で、必要な働きかけをします。勿論、軍事的な威嚇や経済制裁ではなく、高い志に裏打ちされた理念に基づいた提言です。
 当該国・関係国との間だけの密室の外交に留めるのではなく、国際世論にも訴える。正しい理念に基づいた提案とは、長期的に見て、どの国にとっても、誰にとってもよい道筋です。短期的には利害が相容れないこともあるでしょう。目先の利害しか見えない人たちからは、非現実的な理想主義と揶揄されるかもしれません。しかし、目先の「現実」の損得しか見ない「現実主義」は、しばしば現実をさらに悪化させます。なにより、日本自身が、目先の利害損得に惑わされない覚悟が必要です。

 まとめると、1:状況把握が十分でないうちは、軽々に判断しないよう慎重であるべきである。2:情報収集力・分析力を高める。3:状況を把握したうえで長期的視点から、すべての人に利益のある道筋を模索し、世界に提言する。4:その実現に汗を流す。

 これを実行できれば、日本は世界中の人々から敬愛される国になることができるでしょう。一番の安全保障だと考えます。

 空理空論の画餅でしょうか。しかし、政権を執れれば、国の予算も組織も使えて情報収集力が高まり、対外的な影響力も増すでしょう。徹底的に考察し、真摯に努力すれば、良い成果を得ることは、思ったより容易いと考えます。

 おそらく、一番の障害は、国内世論であり、それに向かって仕掛けられるプロパガンダでしょう。プロパガンダの先棒を担ぎそうなマスコミや評論家は、少なくありません。それに耐えられる強さが、我が国にあるかどうか、が問題です。

 以上、私見を書きました。

 またご意見お聞かせいただければ幸甚です。

2020,10,23   立憲民主党長野5区総支部長 そが逸郎

2020、10,24 加筆
 今朝の信濃毎日新聞の書評欄に、香港民主化運動に取り組むジョシュア・ウォン(黄之鋒)の本『言論の不自由』(河出書房新社)が紹介されている。読んでみようと思う。

* * S. I. さんから1通目 2020、10,10 * *

曽我 逸郎 様

現在66歳の私はこれまで一貫して左翼リベラルを自認し、半世紀にわたって社会党->民主党->立憲民主党を支持してきました。ところが3か月ほど前に中国で過去数十年行われてきた人権侵害の全貌を知り、中国共産党の本質を認識してから、従来の「右か左か」という図式が突如もはや意味をなさなくなりました。実際、今年7月23日のポンペオ演説を境に、アメリカも欧州も従来の関与政策を転換し、世界の構図も一変しています。

過去何十年にわたって繰り返されてきた中国共産党の途方もない人権侵害がようやく最近になって急速に世界の注目を集めています。

そのきっかけとなったのが香港。自由と民主主義を求める者はすべて沈黙を強いられ、圧殺さて、拘禁されています。多くの若者が国家の暴力で殺されました。心が痛みます。

同じ危機は日本の隣国、台湾にも迫っています。

欧米議会で非難決議が続出しているウイグルでの民族浄化。推定数百万人のウイグル人が収容所で拷問と洗脳教育を受け、あるいは強制奴隷労働に従事しており、しかも一部の日本企業はこの奴隷労働を利用しています。

120万人を虐殺されたチベットでも、新たに50万人の農民が「教育施設」への移動と工場労働を強制され、あるいは対インド戦線へ徴用されています。

内モンゴルでも民族の魂とも言うべき言語が禁止され、数千人が拘束されています。

そして何より、法輪功やウイグル人等の「良心囚人」が中国の国家産業ともいうべき臓器移植産業のために日々数十人ないし数百人が殺害されているという恐ろしい事実。

ナチスによるホロコーストを量・質ともに上回る規模でのこの国家犯罪に対して、米豪加やEUならびに欧州各国は議会で次々と譴責決議を突きつけています。アメリカではまもなく中国政府を多国籍犯罪組織と規定する法案が提出されます。

では日本は?

枝野党首はTwitterで香港国安法反対のメッセージを個人的に発信されましたが、民主主義の核心をなす人権問題で、なぜ立憲民主党は党として立場を明確にできないのでしょうか?政府与党内には二階幹事長や公明党のような媚中・親中勢力が幅をきかせていますが、立憲民主党は真っ向から中国共産党に対してNOと言えるはずです。人権を重視する政党として今こそNOと言わなければ、人権を語る資格すらなくなってしまいます。

大手マスメディアが一種の忖度で中国の人権問題にほとんど触れないため、国民の多くはこの問題に無関心ですが、逆に、であればこそ、政治家の方々には広い視野で将来を見据えながら国を導いてほしいのです。中国共産党が今ウイグルで、香港でしていることは、私たちが目をつぶっていれば私たちには無関係、というわけにはいかないからです。香港の今日は台湾の明日。尖閣のみならず、沖縄の独立工作や北海道等での土地買い占め、あるいはその他ありとあらゆる中国の対日浸透工作を見れば、日本にとって危機は決して遠い先の話ではありません。立憲民主党が政権を目指すのであれば、自由と民主主義の国々とともに中国共産党と対峙するのか、経団連や公明党に引きずられて中国融和政策を続けるのか、外交の基本姿勢を明確にしていただきたいと切に願います。

かつて55年体制が崩壊したときのように、今世界は大きな変動期にさしかかっています。旧来の左か右か、リベラルか保守かという枠組みを越えて、今問われているのは、人権・民主主義・自由・生命の尊厳という私たちの根本価値を守る側に立って「現代のナチス」、中国共産党に対峙するのか、それともそれに目を背けて目先の経済や身近な国内問題だけを扱えばよいと考えるのか、ということです。私自身は日の丸を仰ぎ見る愛国主義者ではありませんが、右寄りの人たちが愛国心から中国共産党と戦うならば、彼らとともに戦います。しかしリベラルの立憲民主党にこそ、人権と民主主義のために戦いの先陣を切ってもらいたいという思いがあります。

「国民の暮らし」も「学問の自由」も大切です。しかしそれ以前に、日本が中国の「静かなる侵略silent invasionを食い止め、香港のようにならない、ということが大前提です。なぜなら中国に支配されてしまえば、「国民の暮らし」も「学問の自由」も根底から崩れ去るからです。決して被害妄想ではありません。中国の言説ではなく、全方位での行動を注視すれば、習近平の「中国の夢」で世界制覇(地球の半分)を目論んでいることは明らかであり、だからこそそれに気づいたアメリカも、欧州の国々も中国とのPartnershipを打ち切り、「自由で開かれたインド太平洋」という中国包囲網にシフトしてきているのです。

立憲民主党が真に人権を重視し、「自由」の旗を掲げることを祈願してやみません。

S. I.