昨日、『食の安全はどこへ★遺伝子組み換えとゲノム編集★河田昌東さん講演』(於:伊那市図書館、主催:「伊那谷いのちがだいじ!連絡会」)を聞きました。
遺伝子組み換えとゲノム編集の違い、それによるゲノム編集の危険性がよく理解できたと思うので、以下ご報告します。(とは言え、素人の理解なので、文責は曽我)
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遺伝子組み換えの場合は、外来遺伝子を「空気銃で打ち込むようなもの」であり、それが宿主生物の遺伝子のどこに挿入されるかはランダムで、大抵の場合、宿主生物の遺伝子を損傷し、害をもたらす。そのため、外部遺伝子を「打ち込んだ」のち、細胞を培養して、問題のないものだけを選別する必要がある。
一方、ゲノム編集は、改変したい形質にかかわる遺伝子はどの部分かを特定したうえで、その部分を狙って、切り取り、あるいは外部遺伝子に置き換える。
わたしは、漠然と「遺伝子組み換えが外部遺伝子を押し込むのに対して、ゲノム編集は、もとからの遺伝子の一部を切り取り、破壊するだけ?」と思っていたが、ゲノム編集でも外部遺伝子の挿入は行われ得る。一部遺伝子の破壊(ノックアウト)に比べて、外部遺伝子の挿入・置き換え(ノックイン)は法律や規則上の制約が大きいので、ノックアウトの件数が多いというだけのようだ。
ともあれ、上記のような説明だけを聞けば、ゲノム編集に大きな危険があるとは思えないかもしれない。しかし、以下のような多くの問題がある。
一つ目の危険は、オフターゲットの問題である。誤認によって狙っていない遺伝子が破壊されてしまうことだ。狙った部分を、塩基配列(4種類の塩基がどういう順番で並んでいるか)によって見分けて切り取るのだが、別の似た塩基配列部分も誤認され破壊されてしまうことが排除できない。当然その部分が関わる形質に影響がでる。
二つ目の危険は、改変した遺伝子部分が、変更しようとした形質だけではなく、別の働きにも関与していた場合に、予想していなかった思いがけない影響が現れる可能性だ。ゲノム編集は、ターゲットととして狙う部分がひとつの機能しかもたないことを前提にしている。しかし、複数の異なる働きに関与している場合も少なくないのである。
三つめは、マーカー遺伝子がもたらす危険だ。特に抗生物質耐性が拡散することが危惧されている。
少し詳しい説明がいる。
ゲノム編集技術は、四つの要素で構成される。DNAを切断するDNA分解酵素(Cas9と呼ばれるものが使われる)。どの部分の塩基配列を切断するかを識別するガイドRNA。ゲノム編集が成功したかどうかを判別するためのマーカー遺伝子。そして、それらを対象細胞の核に運ぶベクター(ウイルスなどが使われる)である。ベクターを対象となる細胞に感染させて、他の三つの要素を細胞の核に入れる。(先に触れたオフターゲットの切断は、ガイドRNAが似た塩基配列を誤認することによって起こる。)
狙った部分一か所を改変するには、これら四つのセットが一組あれば済むというわけではない。現実には10万から1000万、場合によってはそれ以上がひとつの細胞核に投入される。多ければ多いほどオフターゲットの危険は増す。そして、それだけ投入してもなお、改変が100%成功するわけではない。そこでうまく行った細胞を分別するために使われるのがマーカー遺伝子だ。クラゲの発光たんぱく質の遺伝子や抗生物質耐性遺伝子が使われる。編集作業後、光る細胞や抗生物質をかけても死なない細胞は、ゲノム編集が成功したと判別できる。
つまり、「外部遺伝子は挿入しない、遺伝の一部を切り取るだけ」と称するノックアウトのゲノム編集においても、外部遺伝子は使われるのだ。ゲノム編集作業で持ち込まれる膨大な数の外部遺伝子は、戻し交配によって取り除けるとされるが、多くの時間と手間が必要な作業であり、本当に徹底されるかどうか疑わしい。
既に、遺伝子組み換えで害虫抵抗性(虫が齧ると死んでしまう形質)を与えられた作物の場合、組み換えが成功したかどうかを判定するために、抗生物質抵抗性の遺伝子がマーカーとして使われている。害虫抵抗性の飼料を与えられた家畜において、腸内細菌が抗生物質耐性になっていると報告されている。飼料からマーカーの抗生物質耐性遺伝子が腸内細菌に取り込まれたのだ(遺伝子の水平伝達)。人間の場合も同様のことが起こる。それらは糞便にまざって排泄される。
今、抗生物質の安易な使用が広く行われており、環境中に抗生物質耐性の遺伝子が増えている。それを一層加速するのが、遺伝子組み換えであり、ゲノム編集だ。抗生物質の効かない病気が蔓延することが危惧される。
また、別の危険として、Cas9によるアレルギーも指摘されている。Cas9は、黄色ブドウ状球菌などの細菌も持っており、人類はそれらに日常的に接しているので、Cas9に対する免疫抗体を持っている人が多い(米国人の場合6~7割)。Cas9が多く残留した食材がアレルギーを起こす危険もある。
河田さんは、講演の最後を提言で締めくくられた。ゲノム編集についての安全審査を厳格化すること。そして、きちんとした表示を義務づけ、消費者の選択する権利を守ることである。供給側が、遺伝子組み換えの表示によって遺伝子組み換え作物が普及しないことに懲りたので、ゲノム編集については、表示をしなくてよいようにしようと画策しているそうだ。消費者・市民は、法制度の動向に注視し、おかしな動きには厳しく指弾し、対抗せねばならない。
それはそのとおりだ。しかし、わたしは、安全審査の厳格化と表示義務化に加えて、そもそもすくなくとも食材に関しては、ゲノム編集を禁止する法律を定めるべきではないかと思う。その旨質問したが、回答は、「安倍政権は、ゲノム編集を「成長戦略のど真ん中」と位置づけ、外国との競争に突き進もうとしている。この状況において、その可能性はほとんどない」とのこと。
しかし、講演の冒頭、「ゲノム編集は原発と同じ」との発言もあった。新技術がもたらすかもしれない経済効果に目がくらみ、安全性を忘れている、という意味だ。であるなら、安倍政権に替わる日本政府が、内外の市民と連携して、ゲノム編集技術の乱用に対してタガをはめるべく世界のリーダーシップを執るべきだと思う。
また、質疑では、学校給食のオーガニック化の取り組みも話題になった。
安田節子さんや山田正彦さんから教えて頂いたことも総合すると、米国などでは、食材をオーガニックにすることで、子どもの健康(特に、情緒面など)が改善されたとの報告があり、オーガニック食材の普及が進んでいる。(確か安田さんからお聞きした話では、遺伝子組み換え作物が子どもの腸壁を傷つけ、完全に消化されきっていない食材が、まだ分子数の大きい状態で血管の中に漏れ出すことが原因ではないかと案じられている、ということだった。)学校給食をオーガニック化することで、子どもの健康が守られる。同時に、オーガニック食材の消費の基盤が生み出されることで、有機農業に取り組もうとする志の高い農家が増え、ひいては学校給食以外にもオーガニック食材が広がっていくだろう。波及効果は大きいと期待できる。
日本の現状は、基礎自治体(市町村)レベルの取り組みが始まっている段階だが、韓国などでは国レベルでの模索が進んでいる。例えば、学校給食のオーガニック化に対して国が市町村を支援する制度をつくれば、この取り組みは一挙に普及するかもしれない。
ゲノム編集技術への規制をはじめ食の安全を守るためのルール強化と学校給食オーガニック化支援とによって、大きな成果が上げられるのではないだろうか。
今回の講演にお誘い頂いた「伊那谷いのちがだいじ!連絡会」に感謝します。
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これに関連した内容の講演が、高森町やすらぎ荘であります。『食の安全とタネのはなし4』2月29日(土)13時半~。印鑰智哉さん、安田節子さんがスピーカー。
同日、同時刻に、立憲民主党長野県連代表の杉尾秀哉参議院議員、辻元清美衆議院議員の話を聞ける「新春の集い」を、飯田市エスバードで開催します。わたしも登壇して、2020年代の10年間でどういう社会を作り上げていくべきか発言します。どうぞご来場ください。
2020,2,9 そが逸郎立憲民主党長野5区総支部長